岩崎さんが同じ場に2人いるのは、天文学的確率の極めてレアケースである。
しかし奇跡は2度起こる。大学進学で再び「岩崎」に遭遇した。
その岩崎さんは、大学進学と同時に仙台に引っ越してきた女の子。1年生で加入したサークルで出会った。高偏差値の学部に通う優秀な岩崎さんで、考え方や感覚が私と似ている部分があった。よく一緒にボケをかましてはじゃれていたことを思い出す。見た目がなんとなくムーミンに似ていることを自他共に認めていたが、私も社会に出てから「ムーミンの彼女に似てるって言われない?」と言われることになるので、もしかしたら私たちは岩崎さんじゃなくてムーミン族だった可能性がある。
私がサークルのメンバーとモメた時に味方してくれた、数少ない1人だった。いつも心配してくれて、サークルを離れる時も残念がってくれたらしい。
サークルを辞める前、部室で過ごしていたある日のこと。彼女が突然「私、30になったら死にたい」と言ってきた。長生きをしたくない、と。すぐに「なんで?」と聞いたが答えを覚えていないので、恐らくはっきり教えてもらえなかったのだろう。ただ、当時彼女はブラックバイトに酷使されており、単位や卒業、就職活動や将来に対する不安が相当あったと推察する。地元を離れ、家族や友人が近くにいなくて心細かったのもあるはずだ。だが、当時の私は彼氏であるサークルの先輩に首ったけで、自分のことしか考えてなかった(この頃、すでにメンヘラの兆候があった)。
あの一言が心に引っかかったまま、2人とも留年することなく卒業した。彼女は私をたくさん助けてくれたのに、私はサークルを逃げるように辞めて彼女に何も返せなかった。「正直言って、クソだな」と、今やっと自分の取った行動を反省できるようになった。
数年後、SNSでつながった彼女は岩崎ではなくなっていた。卒業と同時に地元に戻ったらしく、結婚して子どもも生まれていた。時々、子どもの成長記録を独特な文章表現とともに投稿している。一緒にボケかましてた頃の感性は、まだまだ健在らしい。
お互いに、間も無く30歳になる。次に会える機会があったら「なんだよ、絶対死ねないじゃん」って茶化してやろうかな。 その前に、謝るのが先かな。だな。